君が見せてくれた、私の世界
おばさんがいなくなった、想世架の部屋は。
すぐに静寂に包まれた。


カーテンが揺れて、その金具が窓に当たる音がするくらいしか、音がない。

部屋の主は俺に触れたまま、時間が止まったかのように外を眺め続ける。



「想世架。」


「………く、……ら…。」


「桜?」



想世架が桜を見たがってるのは、知っていた。

前からずっと、桜が咲くのを誰よりも楽しみにしていたから。
そろそろ…いい時期だからな。



「見に行くか?」



俺がそう言うと、ほとんど反応のなかった想世架は…小さく微笑んだ。


そんなに嬉しそうな顔をして…。
想世架が微笑んでくれたのが嬉しくて、思わず俺も笑みがこぼれる。



「おばさんに許可とってくるか。」




嬉しそうな想世架を見るのは、久しぶりだ。
小さくても、また微笑む想世架を見れて嬉しい。


可愛い、愛おしい。
想世架に対する愛情が溢れそうになるのを、必死に抑えてキスを落とした。

下手な欲望は見せられない。
想世架には、汚い欲望なんかみせたくない。






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