クールな御曹司の一途な独占欲



「説教・・・ですか?」


まずは本気で抱くつもりではないということが分かって安堵した。

かといって説教をされる心当たりもない。

それでも落ち着いて座って話すのかと思い、ついでにもう手首も解放してもらえるかと思ったけれど、そうはならなかった。

本部長の瞳は鋭いまま。

本部長がこれからするのは「説教」だときちんと宣言したとたんに、彼はメラメラとした怒りの感情を表に出し始めたのだ。


「・・・あの土田社長の連れが例の元彼だったって、どうして黙ってた?」


低い声に息を飲んだ。

壁に押し付けられている両手首も、ギリギリと痛む。

牧田さんの話はもう終わったのかと思っていたのに。



「本、部長」

「それを知っていたら、今日彼とキミを会わせるなんてことは僕は絶対にしなかった!!」



見たこともないくらいの鋭い目に、怒った表情。

怒りと悔しさが入り交じったようなその顔で、さらに力を入れて私を責め立ててくる。


「やっと気づいたよ。どうしてキミが今日の午後、側を離れたいなんて言い出したのか。銀行なんて嘘だろ?なんで正直に言わなかったの!正直に言えば僕が拒否するとでも思った!?」


(本部長・・・)


本部長の必死の訴えを聞きながら、私はポロリと涙が出てきた。

すごい剣幕の本部長を直視しているからか、それとも私のことを心配してくれた彼に感激したからか。

とにかくこんなに彼に心配をかけてしまって、私はなんて馬鹿なんだろう、という涙が流れた。

だってそのことで本部長はずっと怒って、心配してくれていたなんて思いもしなかったから。


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