クールな御曹司の一途な独占欲
本部長は私が断ることを予想していなかったらしく、「え?」と少し間の抜けた声を出して固まっていた。
そんな顔をしないでほしい。
私が本部長をフるなんて不釣り合いなことが起きてしまったのだ、何かの間違いだと思いたい。
私はお茶を淹れるために彼の体を押し退けて、ソファーから立ち上がる。
「一杯お茶を飲んだら、今日はお帰りください。本部長」
「・・・」
納得がいっていない様子だけれど、私は今回はきちんと拒絶できた。
だからもう彼は押しの弱さに漬け込むことはせず、焦った表情で私を見てくるだけだった。
「・・・どうして?」
その本部長の短い聞き方には、色々な意味が含まれていたと思う。
どうして、今まで恋人のフリをしてきたくせに。
どうして、スキンシップを許してきたくせに。
どうして、今日部屋に入れたくせに。
そんなことを私に聞きたいのではないかと思う。
たしかにそれは私も酷いことをしてしまったと思う。
本部長の言い方がいつも冗談めかしていたからだけど、人の告白をいつまでも本気で取り合わなかったことは私の落ち度だった。
実際に付き合ったという形になったし、スキンシップだってとっていたし、今日も言われるがままに部屋に入れた。
それで本気でお付き合いはできませんなんて今さら何を言っているんだと思われてしまうだろう。
でももう、断るなら今しかない。
本部長とは付き合えない、ここだけは譲れないのだ。
本部長は優しくて素敵な男性だ。
いつまでもそうあってほしい。
私は彼を駄目な男に仕立てあげることは絶対にしたくないのだ。