クールな御曹司の一途な独占欲
「・・・香坂さん」
「あ、本部長。やっとお戻りになったんですね。一体どこに行ってたんですか」
ゆっくり、ゆっくりと中に入ってきて、本部長は本部長席にもその隣のソファーにも座らずに、連結しているこの秘書室にそのまま歩みを進めてきた。
「この時間は書類に目を通していただくようお願いしたのに、勝手にいなくなられては困ります。せめて行き先を仰ってからいなくなって下さい」
恥ずかしくてとにかく話し続けた。
本部長に話しかけているのに決して彼の顔は見ずに、こうして忙しいフリをして手元を動かし続ける。
書類をまとめてトントンと整えては置いて、またトントンと整えてはそこに重ねて。
それを延々と繰り返す。
「先ほど社長も本部長を探してらっしゃいましたよ。まあご用事は解決したようでもう心配なさそうですけど、来るときにお会いになりました?」
本部長は何も言わずにゆっくりとこちらへ近づいてくるだけだったので、私はついに、書類をトントンと打ち付けたところで手を止めた。
本部長の気配が私の背後へと移動していくのが分かった。
でも振り向けなかった。
「あの、本部長、なんとか言って下さいよ、」
「香坂さん」
───っ
彼に背後から抱き締められた途端、私はバサバサと書類を落とした。