クールな御曹司の一途な独占欲
そこで時が止まったかのように、私は微動だにしなかった。
本部長の力強い腕が私の肩を回り、首もとでがっしりと組まれている。
甘い香りがして、本部長のふわりとした髪が頬に触れるのに、その腕はとても逞しかった。
「本、部長・・・あ、の・・・」
私の手元は書類を持っていたときの形のまま固まってしまい、それと同じように肩も、顔も、体すべてがこの事態に強張っていった。
自分の心臓の音が聴こえてきて恥ずかくなったけれど、背中にはそれ以上に強い本部長の胸の鼓動が打ち付けられていた。
「・・・僕の気持ちに応えられないなら、これ以上僕を夢中にさせないで」
そう言った本部長の声は掠れて震えていた。
その声を聞かされただけで、私は一気に切なくなって涙が滲んできた。
嬉しい。
こんなことを言って貰えるなんて、本当に。
こんなことを言われたことなんて生まれてから一度だってなかった。
なんて答えたらいいのか分からなくて、抱き締められてから頭が真っ白で、私はそのまま本部長の言葉を聞いているしかできなかった。
「キミが好きだよ。僕のことをそういう対象に思えないって言われたけど、僕はキミが好きだ。・・・こういうとき、どうしたら良いんだろうね・・・」
抱き締められることに微塵も嫌悪感がないことや、本部長に好きだと言われるたびにこんなに胸が苦しくなることで、私は自分の気持ちにすでに気づいていた。
分かってる。
私だって本部長のことを好きになっているから、こんな気持ちになっているのだ。
こんなに素敵な本部長のことをそういう対象に見られないだなんて、最初からそんなはずがなかった。
自覚すると余計に、胸が苦しくなった。