クールな御曹司の一途な独占欲
「・・・本部長、離してください」
どうにか冷静を装った声を絞り出して、私を包む腕を一本ずつ丁寧にほどいた。
本部長の気持ちに応えられない理由は変わらない。
彼のことが好きで、大切だからこそだ。
本当に好きになった人を駄目にしたくないなんて、それなら私はこれからどうやって恋愛をすればいいのかという話になってしまうけど、少なくとも今の私には無理だった。
牧田さんと同じことになってしまうだけだ。
「ごめんなさい。お気持ちは本当に嬉しいのですが・・・」
「香坂さん・・・」
いつもセクシーで強気な瞳をしていたはずの本部長は、今はとても弱々しかった。
でも本部長も、秘書としての私の体質を魅力だと勘違いしているだけだ。
本部長にとって私といることは心地がいいのかもしれないけど、それは間違い。
辛いのは今だけ。
きっと私と付き合ってからの方が、もっと辛い思いをするに違いない。
本部長は静かに目を伏せた後、本部長席に戻っていき、書類に目を通し始めた。
彼の甘い香りがまだ体に残っていて、私は向こうに座っている本部長にバレないように、自分の体をギュッと抱き締めた。