クールな御曹司の一途な独占欲
マスターは他の席のお客さんと話しに行ってしまい、この空間で私と本部長は隣り合った席に二人きりとなってしまった。
本部長室に二人きりのときよりも、何を話すべきか分からない。
仕事の話がなければ、私たちには話せる内容が制限されてしまっている。
「香坂さん」
ふいに本部長はグラスをコースターに置いて、優しい口調で話しかけてきた。
「はい」
「どうして僕じゃダメだったのか、聞いてもいいかな」
ついにその話題に切り込まれたけれど、私はグラスを置かなかった。
どうしよう、何て答えたらいいのか分からない。
私がまともに男性と付き合えないから本部長に応えられないだけで、本部長にダメなところなんて一つもない。
「・・・あのときお話したとおりで、本部長のことはそういう風には・・・」
「キミは結構、魔性だよね」
本部長の言い方は少し冷たかった。
拗ねているようにも感じる。
そりゃそうだ、私は彼の告白を断ったくせに二人で飲みに行きたいと言ったのだから「魔性」だと言われたって仕方がない。
言い返せずにうつ向くしかなかった。