クールな御曹司の一途な独占欲
本部長の切ない笑顔に、動けなくなった。
彼が来て数日のころに自分が言った、何気ない一言が記憶の中に甦ってきた。
秘書としていい仕事をするには、その人のことをよく知ることが第一である。
それは私が秘書をする上でポリシーとしていること。
本部長は今までどうやって生きてきて、今どんな気持ちで本部長席に座っているのか、そのときはずっと考えていた。
前の会社はこの会社と同業ではない。
そこでもう10年以上キャリアを積み上げてきて、管理職になった。
そこでしか得られない知識も、経験も、やっとの思いで10年分コツコツ積み上げてきたのに、父親の会社というだけでここに来ることに何の葛藤もなかったわけがない。
自分を一度まっさらにしてまで、また一からやっていこうなんて、なんて親孝行な人だろう。
そのときはそう思ったのだ。
─『大切なものを手放すことはお辛かったでしょう。でも、本部長がこれからまたやりがいを見つけていけるように、私もできるかぎりお手伝いしますから』─
それはそのとき出てきた言葉だった。
あのときは気に留めていなかったけれど、そう言ったあとに見せた本部長の柔らかい表情は今も覚えている。
今思い出すと泣きそうになるくらい。
「本部長・・・」
「父のことや会社のことを優先して僕に取り入ろうとしていたなら、あんな言葉は出てこない。そこでキミをどっぷりと信用してしまったんだよ。ずっと僕の欲しい言葉をかけてくれるから、秘書としてだけじゃなくて、ずっと側にいてくれたらいいのに、ってね。そう思った」
本部長は最初から私のことをちゃんと想ってくれていたのに、私ばかりが本気にせずにあしらってしまっていただけだったのだ。
卑怯な自分が嫌になる。
今日だってそうだ。
こんな自分なのに、私も本部長の側にいたい、今さらそんな風に思うなんて。