【完】『龍の倅(せがれ)』
とにかくも。
入城したばかりの秀宗は、そうしたことにばかりかまけている場合ではなかった。
伊予宇和島という地理は西に豊後水道を挟んで九州、東は土佐、北には長州…と外様の大藩ばかりが居並ぶ区域の真ん中にある。
とりわけ海を越えた先の日向には島津家の所領があり、さらには関ヶ原の役で西軍についた長州毛利家や、豊臣恩顧の土佐山内家など、本来ならば宇和島は譜代か親藩に任される土地柄であろう。
だが。
そこを任されたのが秀宗である。
井伊直孝の婿とはいえ、秀頼の小姓までつとめた者に要衝を任せるというのは、どうやら裏がある…と秀宗は早くから気づいていたようである。