【完】『龍の倅(せがれ)』
◆5◆
だがしかし。
それより以上に、中世の意識のまま近世になったような家来たちのなかにあっては、山家清兵衛に対する反撥の受け皿となるには、桜田玄蕃の存在は充分であった…といえるであろう。
さらにまずいことに。
山家清兵衛が城下でもっとも宏壮な屋敷に入ったというのも、家中の他の面々の心証をまずいものに変えていた。
「見よ、今にあれは御家を乗っ取りにかかるぞ」
という蜚語が町人や行商の間で交わされるようになり、峠を越えた国境の法華津の辺りまで、噂は広がっていた。