【完】『龍の倅(せがれ)』
清兵衛は反駁した。
「確かにそれはござったが、しかし左京大夫さまの深い慈悲にふれ、その儀はなすことなく終わりもうした」
「まだ終わっておらぬぞ」
桜田は言った。
「まずここで公儀の不興を買わせて宇和島を取り潰させる、さらに仙台を宇和島の始末の不行き届きとして取り潰しをさせ、最上家を再興させる…ではないのか?」
この桜田の目は節穴ではないぞ、とまで言い切った。
伊達家と最上家が長年所領を接し、不倶戴天の間柄であったことは伊達家のものなら幼童でも知っている。
普段ならば他愛のない被害妄想に過ぎなかったであろうこの筋立ては、この場にあってはドラマチックなほどの説得力を持ったものに他ならなかった。