【完】『龍の倅(せがれ)』
思わず清兵衛は、
「掃部頭さまが…にございまするか」
「いかにも」
と桑折は小姓に文を持ってこさせると、
「ほれ、ここに」
と確かに井伊の華押まである。
清兵衛は絶句した。
「つまり江戸表では、貴殿がこの宇和島をほしいままにしておる、と見ておられるようである」
と桑折は言った。
「かくなる上は清兵衛どの、いさぎよく腹を召されるか、仙台へ戻るかしか貴殿にはござらぬ」
桑折の冷静な口調が余計に清兵衛に突き刺さった。