【完】『龍の倅(せがれ)』
江戸表の汐留にあった上屋敷に着くと、
「若様、宇和島様のことはお聞き及びのことかと存じまするが」
と忠宗に報告した。
「知っておる」
忠宗は苦い顔をした。
実のところ、政宗はこの時期、キリシタンを煽動して蜂起させ、三十万の大軍を持って東西から江戸を攻め立て徳川家を潰すのでは…という噂がまことしやかにささやかれており、忠宗は江戸にあってその噂の打ち消しに躍起になっている。
「兄上も兄上だが、父上も父上じゃ」
大人げない、と忠宗は思わず吐き捨てた。
この時代、まだ武家の親子の関係はのちの世ほど上下にやかましいときではない。