after5はお手っ
中学の頃から私の親友である礼美は、サバサバした文字通りの姉御肌で男女問わず、時には先生にまで頼られていた。
押しに弱い私のこともよく知っているし、純粋に突き抜けるヒロトくんのこともわかってる。
だから相談に行くとなったら迷わず礼美のところへという気持ちにも頷ける。
「ご主人様なら、俺のこと絶対に飼ってくれるって」
彼女にとっては冗談のつもりだったアドバイスも、結局のところ叶ったんだもん、ヒロトくんは礼美を神様のように思ってるだろうなあ。
真っ向な助言で良かったんだけどな、と思いながらも、目の前に差し出されたお皿の誘惑に負けフォークを持つ。
その時ふと、頭の中に今の会話が蘇った。
「ねえ、さっき私のことご主人様って呼んだ?」
「そうですよ、俺はもう犬ですから」
素朴な疑問のふりをして問いかければ、ヒロトくんは当たり前のようにニコッと笑って言った。
ついさっきまで、先輩、といつもみたいに明るく呼んでいたのに。パスタを作り終わった途端変化した呼び名。
初めての犬としての仕事を終えたことで、本格的にこの関係が始まってしまったみたい。
「いくら犬だからって、そんな呼び方しなくていいよ。今まで通りの方が嬉しい」
確かに、ご主人様になると決めたのは私だし、さっきも調子に乗ってつい「ヒロト」なんて呼んでしまった。
だからって堂々とご主人様扱いされるのも、それはそれで抵抗がある。
染みついちゃってもし人前で出たら大変だし、何より、やっぱり彼氏や恋人ではないという事実を思い知らされるから。
「嫌ですか?」
「嫌っていうか、そんな呼ばれ方されたことないし。やっぱり、ヒロトくんには先輩って響きの方が合うなあ」
「そうですか・・」
わあ、残念そう。