after5はお手っ
「ひ、ヒロトくんはそう呼びたいの?」
「はい、俺の決意とケジメですから」
「ケジメ?」
しゅん、と項垂れて見えない耳としっぽまで垂らしたヒロトくんが、その言葉を言うときにはまた瞳を輝かせる。
確かにそこには決意という文字が刻まれていた。
「俺はご主人様の犬になったんです、これからは何でも言うこと聞きますから、命令してください」
どうしよう、彼氏とかの枠からどんどんかけ離れていく。
「俺、今までご主人様にずっと着いて回ってたじゃないですか。きっとうざかった時もあると思うのに、優しいから文句の一つも言わないでいてくれましたよね。
今度から、離れて欲しいときはちゃんと言ってください、大人しくしてます」
「ウザいなんてことないよ、ヒロトくんの笑顔にいつも癒されてたもん」
「・・でも、ご主人様が仕事で忙しいとき、都合も考えないでLINEしちゃったんで」
あ、やっぱりあの時のこと、気にしてたんだ。
伏せた目を見てこっちの方が罪悪感にかられ、慌ててフォークを置いて膝に手を当て、ヒロトくんを覗き込む。
「あれは無視しちゃった私が悪いの。ごめんね、今度はちゃんと返すから」
「いや、そういう時こそ 待て って言ってください!ご主人様の重荷にはなりたくないんです」
「(もう犬用語が)重荷じゃない!」
思わず立ち上がって叫んだ私に、ヒロトくんは目を丸くして動きを止めた。
「確かに仕事で疲れてて、返事を打つ気力もなかった。でもね、落ち込んでる間、ずっとヒロトくんやみんなと過ごした時の事考えてたの。
あの頃に戻りたい、また皆で笑いあいたいって。そう思ってた時にヒロトくんが来てくれて、本当に嬉しかったんだよ。今も、そこまでして
私の傍にいたいって言ってくれてすごく嬉しい。だから、重荷とかウザいとか、そんな風に言わないで。私・・」
私だって、ヒロトくんの傍にいたいから。
言葉を使う代わりに、無意識に手が伸びていた。
おずおずとその柔らかい髪に触れ、撫でつけると、ヒロトくんはふっと目を細めて「・・・わんっ」と鳴いた。
「ありがとうございます」
「・・うん」
「ごはん、冷めちゃう前に食べましょう」
はい、と今度はヒロトくん直々にフォークを差し出してきたので、それ以上何も言わずに受け取る。
くるくると巻いた麺を口元に近づけるまで、彼はずっとニコニコと私を見つめていた。