after5はお手っ


今時の男の子のスタイルだけど、髪はまだ染めてない。
さらさらの黒髪は手触りが良く、本当に毛並みの良い犬のよう。
撫でつけるように手のひらを動かしていくと、ヒロトくんのまつ毛が震えてるのが見えた。
それにまたドキッとして、反射的に自分の胸元に引き寄せる。

トン、と額が当たると、不思議とドキドキよりも、胸を満たされる何かがあった。
目を閉じたヒロトくんがとても可愛く見える。これは、癒しの感情なんだ。

しばらくそうしていたけど、不意にヒロトくんがすんっと鼻を鳴らした音で目が覚めた。
ヤダ、私ったらなにしてるんだろう。

「ごめんね、つい」

あたふたと手をかざして後ずさると、ヒロトくんは首を振って、「わんっ」と鳴いた。
犬だから気にしないでの意味だろうか。

「いつでも撫でて下さい」
「う・・うん」

頭ではもう一人の自分が冷ややかな目で叱咤してるのに、手のひらにはしっかり感触が残って、これは癖になりそうと危惧する。
だめだめ、美味しいご飯を食べて煩悩を入れ替えよう。

「ご主人様。できれば、もっと撫でて欲しいです」

なんて飼い主のツボを心得た犬なんだろう。
食べ終わったらね、と返す声が、期待で上ずってしまった。
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