短・いつかこの丘で抱きしめて
いつかこの丘で抱きしめて




雲ひとつない晴れた空。


うるさいほど鳴く蝉の声に耳を傾けながら、必死に坂道を自転車で登る。



永遠に続くのではないかと思うほど長い長い坂道は、この島にあるたった1つの高校へ行くための道。



やっと学校へ着いた頃には汗で身体中がびしょびしょ。



昨日新しく買った制汗剤と制汗シートで、人目もはばからず身体をスッキリさせる。



家を出るときの状態に戻ったことを確認し、自転車置場を後にした。



「愛那(まな)ーっ!ちょっと!大ニュース!」



教室へ入るやいなや、親友のらんが走ってきた。



「なに?どうしたの?」


「あ、あの須山勇利(すやま ゆうり)がっ、この島に撮影に来てるんだって!」


「須山勇利?誰それ?」


「はぁー?!勇利くん知らないのっ?!今人気ナンバーワンの若手俳優じゃん!」




残念ながら日常生活の中でテレビをつける習慣がない私に、芸能界のことがわかるわけがない。



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