短・いつかこの丘で抱きしめて



そのあとも案の定、須山勇利の話題でつきっきり。



女子も男子も会えるんじゃないかとソワソワしていて、私だけが興味ないんじゃないかというくらい周りのみんな全員が興奮していた。



誰かも知らない私は一緒に盛り上がることもできず、適当にその場をあしらった。



終わりのチャイムを聞いて友達に別れを告げ、いつものように駐輪場までダッシュする。



自転車に飛び乗り勢いよくこぎ始めたのは………ある場所へ行くため。



その場所とは、この島の中で上の方にある学校よりもさらに上に位置する海の見える小さな丘。



ここで私は毎日お母さんへ話しかける。



「今日はね、なんか須山なんとか?っていう俳優が撮影しに来てるとかでみんなが騒いでて、とにかーくうるさかったよ」



3年前、お母さんは病気で亡くなった。



元気なときにお母さんはこの丘へ私を何度も連れてきてくれた。



この島で生まれ育った自分は、悩んだり悲しいことがあったりしたときに、この場所で落ち着かせていたと言っていた。



だから、この場所へ来れば会えるような気がして……毎日のように来ている。



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