マドンナリリーの花言葉
「はあ、……ありがとうございます」
やっと飲み込めたのか、涙目になりながらローゼが答える。
ディルクは笑い出したいのを堪えながら、彼女が落ち着くのを待って切り出した。
「パウラ夫人に会って来た」
「なにか、……進展はありましたか?」
「なにも無かったな。ただ、俺もあまりに彼女の背景を知らなすぎると気付いてな。彼女の過去やアンドロシュ子爵のご子息について、少し調べてみようかと思う」
「ご子息?」
「アンドロシュ子爵があまりにも屋敷から出てこないからね。父との接点はどこだったのだろうと聞いてみたんだ。どうやら彼は父と友人だったらしい。俺は小さい頃フリード様の遊び相手としてこの屋敷で暮らしていたから、自分で思っているより父のことも知らない」
ローゼは一瞬ハッとなって眉を寄せる。
「……ご家族と離れて暮らされていたんですか」
「ああ。実家よりもここにいるほうが長かっ……」
ディルクは言葉を切った。目の前のローゼの顔が悲しそうに歪んだからだ。
「ローゼ?」
「あっ、すみません。私……」
「どうしたんだ」
「なんでもありません。すみません」
目の前のローゼが落ち込んだのは、顔を見ていれば分かる。しかし、理由が思い当たらない。
ディルクは少し焦りつつ、「なんだ。言いたいことがあるなら言えよ」と若干言葉を荒げて問いかける。
「何でもないです」
「君は顔に出る。中途半端にごまかされると余計気になるだろう」
思わず強く言ってしまってからしまった、と思う。ローゼが途方に暮れたように身動きが取れなくなっているのだ。