マドンナリリーの花言葉


 それから夜会までの間、ディルクはフリードの許可を得て、アンドロシュ子爵について調べるために各所を奔走していた。
領内貴族の交友事情に疎いのはフリードも気にしていたところだ。なにせ、他の領内貴族に比べてフリードは格段に若い。上位貴族であるからには軽んじられることはないが、どうしても一歩踏み込めない距離を感じてしまう。

そしてある程度話がまとまったところで報告の時間を取ったのだ。


「アンドロシュ子爵は現在六十五歳。現在の奥方であるパウラ夫人を娶ったのは十八年前の四十七歳のときですね。前妻はそれより二年前に病気で亡くなっているので、一見問題はないのですが、奥方の年が若すぎました。どうやら当時十五歳での嫁入りだったようです」


淡々とした表情で報告するディルクに対し、フリードは眉間にしわを寄せ嫌悪感をあらわにした。


「年の差は三十二歳もあるぞ? 親子よりもあるじゃないか。誰も止めなかったのか?」

「そうですね、すでにそのとき前子爵夫人との子供であるエーリヒ様が二十七歳。縁談相手としては彼のほうが適切であったと思いますが、エーリヒ様はすでに妻帯されていました。……それでパウラ夫人の出自を調べたところ、没落した子爵家だったようです。ご存知ですか? クライバー子爵家というそうですが」


フリードは顎に手を当てて考えた。椅子の背もたれに背中を預け、長い脚をゆっくりと組む。


「……聞いたことがないな。おじい様の代のことはよくわからないからな。記録もとったり取らなかったりとあいまいだし。こうしてみると先代である父上は何もできないけれど記録だけは得意だったんだな。ここ数年の記録はすごくしっかりしている」
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