マドンナリリーの花言葉
「そうですね。実際、現在クライバー子爵家はありません。パウラ夫人が輿入れするあたりで当主を失い、跡を継ぐ男児もいなかったようで、今は屋敷自体ないそうです。最後のほうは財政的にも厳しかったようで、アンドロシュ子爵から多額の借金をしていたようですね」
「借金?」
「そう。そこです。パウラ夫人との縁談は、それまでの借金を帳消しにする意味があったようです」
「悪趣味だな。いくら借金のカタにと言っても年が離れすぎている」
「パウラ夫人はその後すぐ妊娠し、死産しています。それから子供には恵まれていないそうです」
「本当の独りぼっちというわけか。こうやって素性を聞くと、愛人を作りたくなる気持ちも分からないではないな」
言ってからフリードはしまったというようにディルクを仰ぎ見た。
ディルクはと言えば冷ややかに彼を見つめて答える。
「別に気になさらなくていいです。私もそう思いますよ。それで、……実は今まで言っていませんでしたが、私はパウラ夫人と会ったことがあります」
「は?」
「父の墓参りに行ったときに偶然……。彼女は視力を失っているうえに記憶も混在していて父が死んだと思っていないのです。私を父だと勘違いして話しかけてきます」
フリードは驚いたようにディルクを二度見し、張り詰めていた息を吐き出した。
「墓参り……そういえばここ数年定期的に行くな」
「最初は、あの当時の話がいろいろ聞けるものかと思っていたのですが、実際はパウラ夫人が散歩するのについて歩くだけです。彼女と父の愛人関係に関してはなんとも言えません。お付きの侍女が一緒に来ていて、彼女は父との間にそんな関係はなかったと言いますが、パウラ夫人の接し方を見ていると愛情はあったのではという気がします。私と墓場で会うのも三十分くらいで、その後はすぐ彼女は侍女とともに馬車で戻っていきます」