マドンナリリーの花言葉
「じゃあ、夫人を直接訪ねても詳しいことは何も分からないということか?」
「でしょうね。意外と内情に詳しいのが、子爵領の町から通いで勤める下働きの下女たちなんです。今回の話は、彼女たちから教えてもらいました」
「子供ができないということは子爵とも案外夜の生活はないのかもしれないな。年も離れているし。……そう思えばまだ若いのに可哀想ではあるな。その状況だと別れたところで戻る実家もなさそうだし」
「ええ。それとですね、ずっと黙っていて申し訳なかったのですが、アンドロシュ子爵の奥方はローゼにそっくりなんです」
「は?」
ディルクの報告に、フリードは動きを止める。脳裏には、ギュンターから頼まれた絵画のことがよぎった。
「血縁関係を疑うほどそっくりです。でもまあ、……ローゼの家族仲は円満ですし、なにも心配することはないんですが」
「いや、でも待てよ。その死産したという最初の子供。もし生きているならあのくらいの年なんじゃないのか?」
その可能性はディルクも考えた。
確認しようとローゼの実家の前まで行ったのだ。けれど、その門戸をくぐることはできなかった。
ローゼは今の家族の中で幸せなのだ。仮にパウラが実の母親だったとしたら、彼女は今よりずっと不幸になる。
もし事実だったとしても、彼女には必要のない事実だ。