マドンナリリーの花言葉

「……それはありません。実はローゼの実家はうちの墓場にほど近いところにあって、彼女もパウラ夫人を目撃しています。驚いてましたが、ただの他人の空似だと言っていました」

「そうか?」


フリードの目には疑念が満ちている。しかしディルクはそれを冷静な瞳で押さえつけた。


「そうです」


硬質なディルクの声に、フリードはまだ言いたいことがありそうだったが、今これ以上追及するのは得策ではないと判断したのか、体を起こし語調を緩めた。


「前に、ギュンター殿がローゼに執着するのは、ある肖像画に描かれた女性と似ているから、と言っただろう」

「ええ」

「その女性はパウラ夫人だと思うか?」


先ほどよりは答えやすい質問に、ディルクは少し緊張を緩める。


「……可能性はローゼよりあります。彼女はクライバー子爵令嬢だった時もアンドロシュ子爵夫人である今も一貫して貴族であり、肖像画に描かれる機会があってもおかしくない。クライバー子爵は資金繰りに困っていたという話ですので、画家を雇うほど余裕はないかもしれませんが、アンドロシュ子爵だったら可能です。一方、ローゼは花農園の娘です。資産的にも文化的にも、絵画に描かれる可能性は少ないかと」

「だよな。……しかし既婚者となると話は余計難しいな」


フリードが頭を抱えたのを見て、ディルクはお茶を入れるために動いた。
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