マドンナリリーの花言葉
フリードは小さく笑う。ディルクは突拍子もないようで実は計算されたその提案に若干呆れつつ、ため息をついた。
「……相変わらず、度肝を抜くようなことを考える奥方で」
「まあそういうな。そこがいい」
フリードののろけに乗る気分にはならなかった。
たしかに一理はあるけれど、ローゼを人目にさらすということは、彼女にとっては平穏な日々が終わりを告げるのと同義だ。
「たしかに全てのカタを一気に付けることはできるでしょうが、私は反対です」
「どうしてだ? 全て動き出している今、これが最善だと俺は思うが」
「当人の気持ちを無視しすぎです。ローゼは納得しているんですか? あなたは使用人を守るとおっしゃったはずだ」
「もちろんだ。だったらディルク。他に手はあるか? 最も最善な方法をお前が提示できるなら俺だって考えを改める」
「それは……」
ギュンターがローゼを連れてくるように言っている以上、夜会に行かないわけにはいかない。
侍女として連れて行った場合は控室に待機となるが、フリードもエミーリアも夜会に出席していればどうしても社交が中心となる。誰かが控室に押し入ったとしても守ることなどできないだろう。
ディルクだってフリードの警護も兼ねている以上、主から目を離すわけにはいかないのだから、ローゼに構いきりにはなれない。
だとしたら多少人目についたところで、目の届くところに居てもらった方が守りやすい。……エミーリアの提案はそういう意味だ。