マドンナリリーの花言葉
「あ……はい! 教えてもらいました」
「君は力には自信があるのかな? 俺には女性ひとりが持つには多い量に思えるが」
「大丈夫です。実家でもこのくらい軽く持っていたので」
意気込んで野菜袋を持ち上げると、再び見えなくなったあたりから、ふ、と小さく笑う声がした。
空気が途端に柔らかくなった気がする。
「……ならば、任せよう。前が見えないのは危ないから気を付けるように」
「は、はい!」
どんどん高鳴っていく心臓の音を意識しながら、ディルクの脇を会釈をして通り過ぎる。
(ちゃんと私に任せてくれた)
ローゼにはそれが嬉しかった。
持ってくれようとする男性たちの優しさは、仕事の上ではローゼを不快にさせるものだ。
(でも彼は違う。ちゃんとわかってくれる。やっぱり素敵なひとだ。見た目だけじゃなくて、中身も。私、彼に私のことも好きになってほしい)
浮かれる自分の気持ちを抑えきれず、庭師のもとへとたどり着いた時には怪訝そうな顔をされた。
それでも、ローゼのにやけ顔が変わることはなかった。
ローゼが今まで読んできた物語では、女性は出会った瞬間に男性に見初められ、熱烈なアプローチの末、恋に落ちる。追いかけるのは男性のほうで女性ではない。女性は常に駆け引きをして男心を揺さぶる存在だった。
なのに今、恋をしてしまったのは自分のほうなのだ。
物語に出てくる男性的なアプローチは、ローゼがやったところで様にならないし、それでディルクがときめいてくれるなんてこともあるはずがない。
どうすればいいのだろう。何を参考にして頑張ればいいのか、とっかかりさえ分からない。
ローゼの中で思い切り盛り上がってしまった恋は、出だしから躓きの様相をみせていた。