マドンナリリーの花言葉


 ディルクは苛立ちを押さえられないまま、伯爵家の広い廊下を早足で歩く。
向かうのはローゼの部屋だ。侍女に抜擢されて以降、ローゼはエミーリアの部屋にほど近い位置に部屋を与えられている。

ノックを二回。反応を待つ間も落ち着かず、ディルクはせわしなくあたりに視線を送る。
しかし、しばらく待っても返事はなく、まだ戻っていないのかと踵を返したその瞬間、「だからっ、無理ですっ」と半泣きの声がエミーリアの部屋から聞こえてきた。

ディルクはしばらく考え、あえて続き間のほうをノックする。
しばらくして出てきたのはメラニーで、ディルクの顔を見ると微笑んだ。


「あら、ディルク様、ローゼに御用ですか?」

「……なぜわかる?」

「エミーリア様にご用事ならあちらの部屋の戸を叩くでしょうし」

「君に用事があるとは考えないのかい?」


ディルクが顔を寄せて言うと、メラニーはクスクス笑うと扉を大きく開いた。


「ディルク様が私に用事があったことなど、今までに一度もないでしょう」


たしかにその通りだ。
エミーリアへの用件は本人に直接いうことのほうが多いし、ことエミーリアの衣装に関してディルクが口を出すことはない。
しかしながら、フリードに続いてメラニーにまでも見透かされた感じがしてディルクの眉間にはしわが寄る一方だ。


「どうそお入りください。……エミーリア様、ローゼにお客様ですわ」


メラニーの声に、開かれたままの続き間の向こうから声がする。
< 110 / 255 >

この作品をシェア

pagetop