マドンナリリーの花言葉
「えっ?」
「えー誰かしら」
「ディルク様です」
ローゼの声に続き、エミーリアの声。やはり先ほどの泣きそうな声はローゼか、とディルクは神妙な顔を崩さぬまま思う。
「あらディルク。ちょうどいいわ、こっちに来てちょうだい」
「や、無理です。エミーリア様」
「キャー脱いじゃダメよ、ローゼ」
ディルクがメラニーに押されるようにして続き間の扉をくぐると、そこにいたのは、ピンク色のドレスに身を包んだローゼだ。艶のある金髪は編み込まれ、シルクで作られた薔薇の花飾りで留められている。ディルクは思わず見とれていた。息を飲む美しさとはこのことだ。
ローゼは顔を真っ赤にしたままディルクを見て硬直している。つかつかと彼女の傍に近づきながら、ディルクも胸の高鳴りと戦っていた。
そして立ち止まった瞬間、怯んだようにポロリと、ローゼがいう。
「ご、ごめんなさいっ。私なんかがこんな格好をしてっ」
「は? なにを」
「侍女のくせに何をしているんだっておっしゃるんでしょう? 本当に申し訳ありません。こんな格好していたら、ぱ、パウラ様を思い出させてしまう」
「落ち着け、ローゼ」
彼女の肩に手を乗せながら、今の今までパウラ夫人のことなど思い出さなかった自分をディルクは不思議に思った。
たしかに、着飾った彼女には貴族としての気品も加わり、パウラ夫人にそっくりだ。
でもディルクが息を止めたのはそんなことでではない。
(あまりに美しくて……)
そう思ったとたんに顔がカッと熱くなる。慌てて口もとを押さえたディルクを見て、ローゼはますます悲しそうな顔になり、ドレスの留め具に手を伸ばす。