マドンナリリーの花言葉


 入った部屋は客用の寝室だ。今日は来客の予定がないので部屋は整えられた状態から動きがない。まるで眠っているかのように静かだ。


「……あの」


ローゼは不安げにディルクを見つめる。

平民である自分がこんなドレスを着ているところなど見せて、呆れられたのではないかと不安になる。まして、こんなパウラ夫人をほうふつとさせる格好なんて、ディルクに見せたら嫌がられるだろうとしか思えなかった。
実際、目の前の彼は険しい顔をしていて、ローゼは気が気ではなかった。

そんな彼が、ひとつ大きくため息をついてようやく口を開く。ローゼはびくりと体を震わせて彼の口もとを見つめた。


「ローゼ」

「は、はい。あのっ、これはですね、エミーリア様がお戯れで。あの、すぐ脱ぎますからっ、嫌わないでくださいっ」

「落ちつけ。話は聞いた。エミーリア様の遠縁の娘として夜会に出るのだろう。奥様もフリード様も納得していることだ。俺から言うことは何もない」


ディルクの声は低く、どんな感情も含んでいないように冷静に響く。ローゼはますます悲しくなってきて、目が潤んでしまった。そして夜会に対する不安も再び顔を覗かせる。



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