マドンナリリーの花言葉


「……どうしましょう。ディルク様。私に夜会なんて無理です。踊ったこともなければ、上流階級の話題だって知りません。今からでも遅くはありませんから、ディルク様からエミーリア様にこんなことやめるように進言してもらえませんか」


ピンクがかった金髪、小さな顔に軽く染まった頬。全体的に柔らかいピンク色でまとめられたローゼは、まるで人形のようだ。潤んだ瞳だけが、必死に彼女が生きている人間だと証明している。

この美しさが、男を惹きつけないはずはない。まして社交場を訪れ慣れている貴族の男ならなおさらだ。夜会になど出たら、あっという間に人の山に囲まれるのは間違いない。


「……不安か?」

「不安というか、無理です。私がただの侍女だとバレたら、フリード様にもエミーリア様にもご迷惑をかけます。……私はたしかに、お二人にあこがれてこの屋敷で働き始めました。貴族の方のようにきれいなドレスを着て夜会で踊るのは夢でした。だけど、夢はあくまで夢です。私のような農家の娘には分不相応ですし、人を騙すようなことはできません」


「そうだな。君のその考えは正しい。人を騙すには、君は素直すぎるしな」


ディルクはクスリと笑い、彼女の耳の後ろにほつれた髪をそっと触った。


「だが、エミーリア様やフリード様にはもっと深い考えがある。君で遊んでいるわけではないよ」

「え?」


ディルクは神妙な顔で、ローゼに諭すように言う。
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