マドンナリリーの花言葉
「いいか、ローゼ。今回は、奥様の言うとおりに遠縁の娘を演じるんだ。ダンスの誘いは断っていいし、会話はエミーリア様が引き取ってくださるだろう。君をひとりで他の男に預けたりはしない。常に奥様の傍について、彼女の指示通りにするんだ。引き寄せたい獲物は勝手に引き寄せられるだろう。それに、なにかあれば俺が傍に行く。約束するよ」
「でも」
「信じられない?」
ディルクの言葉に、ローゼは真っ赤になった。
「そんなっ……こと、ありません。私……」
ディルクが言っているのは、仕事上の話だ。決してローゼ自身に向かって言っているわけではない。
だから、ドキドキしてはダメなのに、気持ちがどんどん加速していく。ローゼは泣きたくなってきた。
(こんな言葉をかけられたら、気持ちを抑えるなんて無理だわ。期待してしまう)
だが期待するのと同時に、脳裏にパウラ夫人が浮かび、冷水をかけられたような気持ちになる。
(……どうして私は、あの人とそっくりなんだろう。もっと違う顔なら良かったのに)
ローゼの内心の葛藤にも気づかず、ディルクはふっと優しく笑うと、膝をついてまるで忠誠を誓う騎士のように、ローゼの手を取った。
「君に何があっても守ると誓う。だから怯えることはないんだ、ローゼ」
「ディ、ディルク様」
誓いのキスが指の付け根に落とされた。まるで騎士様の求婚のようだ。物語で読んだことのあるそのシーンとそっくりな状況にローゼは頭から火が吹いてしまいそう気がした。
足に力が入らなくなり、突然膝がかくんと折れる。が、ローゼが膝をつくことはなかった。
ディルクも咄嗟に立ち上がり彼女を支えてくれたのだ。