マドンナリリーの花言葉
「おい、大丈夫か」
ローゼの視界が彼の焦った顔で埋まる。胸がぎゅうぎゅうと苦しくて、ローゼは自身の胸を押さえた。
「す、すみません。……びっくりしちゃって。だってディルク様、小説のヒーローみたいに格好良いんですもの」
「小説?」
「愛読書のロマンス小説です。格好いい騎士様が美しい貴族令嬢を望まない政略結婚から助けてくださるの」
「はあ」
「そんな恋をしたいって思っていました。……それも、夢ですけれど」
蕩けるような瞳で頬を染める彼女を見て、ディルクは呆れたようなくすぐったいような思いが腹の底から湧いてくる。こみあげてくるおかしさといとおしさが堪えきれず、ついに噴き出してしまう。
「はっ、……ははっ、さっきまで焦ってたと思ったらなんて呑気な……ミーハーだな、君は」
それは図らずも、ローゼの胸をこれ以上ないほどときめかせるような無防備な笑顔だった。
見惚れたローゼは、真っ赤になって照れくささを隠すように顔を押さえた。
「や、やだっ。すみません、私ったら」
「いや。……まあとにかく、そんなものだと思えばいい。君が望まない結婚からなら、俺が守ろう。だから安心していい」
「え……」