マドンナリリーの花言葉
(だって、ディルク様は私のことなんて好きにならないのに。ハッピーエンドが見えないロマンスなんて……切ないだけじゃない)
ローゼがひそかにしゅん、としたのには気づかず、ディルクは手を差し出した。
「さあ、戻るぞ」
「はい」
エスコートされるままに手を乗せて、歩きながら、ローゼは自分が変身してしまったような気になる。
夢に見たような美しいドレスに身を包み、大好きな彼にエスコートをしてもらう。自分じゃない誰かになったようで、叶うならずっとこのままでいたいとさえも思った。
しかし、ふたりが向かった先は華やかな社交場でも、美しく花咲き誇る庭園でもなく、隣室のエミーリアの個室だ。
「あら、案外早いお戻りね」
茶化すようなエミーリアに、ディルクは眉根を寄せ、「奥様は最近ひと言多いです」とつぶやく。
夢が覚めたように、ローゼは我に返って思いなおす。
薄ピンクの豪華なドレス。これにはきっと魔法がかかっている。
ディルクがこんな風に優しいのは、きっと、ドレスを着ている間の夢なのだろう、と。