マドンナリリーの花言葉


ローゼがクレムラート伯爵家で働いて三週間。
明日は初めて、丸一日の休日をいただく日だ。


「でも住み込みの人間が休んでも落ち着かないだけよね」


ローゼは髪をとかしながら、同室のジルケに問いかける。


「私は休みの日は実家に帰るわよ。ローゼの家も日帰りできるんでしょう? 帰ってきたら?」


なるほど、それもいいかとも思う。
ジルケはローゼと同い年だが、メイドとしては先輩だ。最近では寝室のシーツ交換や洗濯をともにすることが多い。


「そうね」


でも、今は家に帰るよりも、ディルクの姿を見ていたかった。

ローゼの片思いは今も変わらない。ディルクは親切ではあるが、それだけだ。

ローゼが仕事の上で困っていることがあれば、さりげなく助けを出してくれるし、ふと、視線を感じて顔をあげれば、彼と目があったことも何度もある。

それをジルケに相談したときは、『ローゼは綺麗だもの。あのディルク様もやっぱり目を惹かれるんじゃないかしら。脈ありかもよ』なんて言ってくれたけれど、ローゼ自身はそうは思えなかった。

他の男性使用人たちが送ってくる視線とは、質が違うのだ。
熱を帯びていないと言えばいいのか。どちらかと言えば硬質な冷たい視線で、目が合うとときめきより先に、なにかしでかしてしまったかとヒヤリと考えてしまう。

距離を詰めたくて話しかけても、柔らかい物腰で話を簡潔にまとめられてしまい、世間話などさせてくれる隙間もない。これが続くと、笑顔でこれ以上近づいてこないようにと牽制されているようにも感じてしまう。

結局、ローゼとしては、真面目に仕事をするくらいしかアピールポイントもなく、彼がフリード様とともにいる時をのぞき見するのが毎日の楽しみというような寂しい日々を送っている。
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