マドンナリリーの花言葉
「ほう?」
「エミーリア様から、庭園の薔薇が素晴らしいと伺いました。庭園を美しく整えると、どうしても綺麗なのに剪定しなければならない花も出てきます。それを室内に飾られると思うので……」
「……それは、いいな。フリード様に一筆添えてもらおうか。すまんが少し待っていてもらえるかな」
ディルクは花商人に念を押すように言い、屋敷の中へ走っていく。
残されたローゼに、花商人は前のめりになる。
「すっかり上流階級の人みたいになったじゃないか、ローゼちゃん」
「まさか。侍女だからメイド服じゃなくなっただけ。中身は今までと変わりないわ。ねぇ、クルト?」
声をかけられて、花が乗せられた馬車の奥に乗っていた花商人の息子のクルトは、不満げな目を向けた。
「どうかな。君は望んでいた通りに貴族の屋敷に入り込んだわけだ。どうせ、上流階級の男に望まれているんだろ? 変わっていないというなら、もともとそれを狙っていたってことじゃないか」
「こら、クルト」
昔は好意的だった青年の冷たい視線に、ローゼは身をすくめた。花商人が取り繕うように苦笑する。
「すまんな。クルトのヤツ、ローゼちゃんが遠い世界に行っちまったようで、拗ねてるんだよ」
「違うよ。女はしたたかだなと改めて思い知っただけさ」
「こら……」
息子をたしなめようとした花商人が言葉を止めた。ディルクが戻って来たのだ。
「待たせたな。では、この馬車いっぱいの花を手紙を添えて王家に送っていただきたい。支払いはいつも通りナターリエに言いつけてくれ」
「毎度ありがとうございます!」
もみ手をする花商人を送り出し、屋敷の中に戻ろうとしたディルクはローゼがおとなしいのが気になった。