マドンナリリーの花言葉
「用意が出来たか?」
フリードがディルクを伴い部屋に迎えに来る。こちらも正装をしていて二人が並べば昔憧れた通りに美しい。
自分は今夢見た場所に立っているんだと思うと同時に、クルトの冷たい視線がよみがえって胸を突き刺していく。
「どうしたローゼ。緊張しているのか?」
隣に立ち、エスコートしてくれたのはディルクだ。
「い、いえ。ただあの、私、本当にこんな格好で……ここにいていいのでしょうか」
「命令だと言っただろう。これは奥様と旦那様のご意思だ」
「……ですが」
眉を寄せ続けるローゼに、ディルクは困ったように頭をかき、ポケットから一輪の白桃色の薔薇を取り出した。
「これ、どうしたんですか?」
「今日の花の中から一輪頂いた。……もっと早く渡すつもりだったんだが、タイミングを逃した」
「……私にですか?」
「そのドレスにも合うだろう。君の名の花だ」
そしてディルクは彼女の耳のあたりのその一輪を差し込んだ。彼の指が耳に触れたことにローゼの胸は熱くなる。ドギマギしながら彼を見上げると、微笑んだ口元が開き、なにかを言いかけた。
「いいじゃないか。ローゼに似合っている」
そのタイミングで、前を行く伯爵夫妻が振り向いた。
「あら、本当ね。そうそう、私もローゼはこういうイメージ。中央がピンクっぽいクリーム色の薔薇」
「あ、ありがとうございます」
ローゼは顔を真っ赤にし、礼を言ってからもう一度ディルクを仰ぎ見た。
しかし、タイミングを逃した彼はもう口を開こうとはせず、無表情のまま前を見続けていた。