マドンナリリーの花言葉

やがて、邸内からざわつく声が聞こえた。ギュンターは廊下に出て、一階の広間にクレムラート夫妻と、もう一組の男女が入ってくるのを見つけた。
ダークブラウンの髪の男は、クレムラート伯爵の腹心の部下であるディルク。そしてその隣で全身を緊張させながら歩いていくのは、メイドのローゼだ。ピンクのドレスに身を包み、身をひそめる彼女は見るからに可憐であり、使用人たちが感嘆のため息を漏らしている。

侍女として連れてこい、と伝えたはずなのに、これでは完全に招待客の一人だ。あっという間に彼女は人目を引き、「あの令嬢はだれか」と話題の的になってしまった。

ギュンターはクラウスにその場で待つように言い、慌てて階下へと降りる。


「やあ、よく来てくれたね。……エミーリア、随分と美しいお嬢さんを連れてきたな」


ギュンターは軽く頬をひくつかせたまま、エミーリアに笑いかけた。


「お兄様、今日はローゼを遠縁の娘ということで出席させます。社会勉強ですわ。正式な招待客ではありませんし、ずっと私の傍に居させますから」


エミーリアも負けじとにっこり笑う。


「彼女を一人にしないための布石かい? なるほど、なかなか用心深くなったものだね、エミーリア」

「私だって、いつまでも子供ではありませんのよ」

「実家にいるときにその才能を開花させられなかったのは俺たちの落ち度だな。お前を令嬢らしくさせるために閉じ込めていた期間が勿体なかった」

「そのおかげでフリードと出会えたんですもの。感謝してます」


兄妹の会話の応酬の間、フリードは黙って辺りに視線を巡らせた。
階段の上に、金髪に派手な赤色の上着を羽織った非常に目立つ容貌の第二王子を見つける。

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