マドンナリリーの花言葉
8.全ての真相をこの手に
ディルクは、エーリヒに連れられて一階の客間の一室にいた。扉を閉めていても、広間からの演奏や人々のざわめきが感じられる距離の部屋だ。
「なぜあの娘がここにいる?」
エーリヒは腕を組み、苛立ちを含む口調でディルクを責め立てる。
「なぜといわれましても。エーリヒ様、彼女はローゼと言って、家柄的には特筆することのない娘です。現在はクレムラート家に仕えておりまして、エミーリア様のお気に入りですのでこうして一緒に連れてきただけです」
「農家の出身なんじゃないのか? この場に出てこれるような身の上じゃないだろう?」
「どうしてそれを……」
ディルクが眉を顰めると、エーリヒは口元を押さえて視線を泳がせた。
「そんなことはどうでもいい。とにかく、あの娘をこんな場に出すのはまずい。君だって、自分の父親が死んだときのことを知らない訳じゃないだろう?」
「あなたの義理の母親……子爵家のパウラ夫人とともにいたというのでしょう?」
「そうだ。そのパウラとそっくりだ! 父に見つかったら大変なことになる」