マドンナリリーの花言葉
**

 クライバー子爵家は、パウラが小さな頃から事業がうまくいかず、衰退の一途をたどっていた。それでも何とか貴族としての体面を保っていられたのは、ひとえにアンドロシュ子爵からの融資金のお陰だったのだ。

パウラは小さなときから、その美しさに定評があった。陶器のような白い肌、つぶらな瞳に花びらのような可愛らしい唇。誰もが、この少女がいつか社交界で耳目をさらう存在になると信じて疑わなかったし、クライバー子爵も娘がいつか大貴族に見初められるものと信じていた。

しかしパウラが十五の歳を迎えたその日に、アンドロシュ子爵が手のひらを返したようにこれまで貸したお金の返済を言い渡してきたのだ。
当然、そんなに急に返済などできるわけがない。戸惑うクライバー子爵に、アンドロシュ子爵が持ち掛けたのが、パウラとの結婚だった。

当時、妻を亡くしていたとはいえ四十八歳の男に、社交界デビューさえ果たしていない娘が嫁になど行けるわけがない。
両親は反対した。けれども多額の借金を目の前にし、ついに折れたのだ。

当然、パウラは嫌がった。しかし、結婚を断ればクライバー子爵家は没落、パウラも生活のために身を落とすよりほかなくなる。仕方なく、パウラは結婚を承諾した。

クライバー子爵は、せめてもの思い出にと輿入れ前にパウラの肖像画を描かせることにした。

裕福ではない貴族が呼べる画家と言えば、大して名も売れていないような若手しかいなかったが、才能は秘めた若者だった。
ベルンハルトという名のその男は、三ヶ月かけて肖像画を完成させた。その間にパウラと彼がふたりきりになることはたびたびあった。

望まない結婚を前にしたパウラが、若い画家と最初で最後の恋に落ちたのは、もしかしたら当然の成り行きだったのかもしれない。

< 136 / 255 >

この作品をシェア

pagetop