マドンナリリーの花言葉
ローゼが読んできた物語は、恋愛に特化したものばかりだ。
そもそも庶民には字を読めない人も多く、本はそこまで大衆化していない。
だが、ローゼの母は結婚を機に辞めるまで、貴族の館で侍女をしており、文字の読み書きができる。
農園の経営がしっかりできているのも、母の記録のおかげだ。
本も元々は母親の私物で、小さいころに母から教育を受けたローゼは、本が大好きだった。
とはいえ、農園では本を入手するのも一苦労なので、家にある本を何度も繰り返し読むことが多かった。
それでローゼの恋愛観はその小説にすっかり染められてしまったのだ。
「……決めた。私、明日ディルク様を追いかける」
「え? ちょっとローゼ」
「彼がなにかに傷ついているなら助けてあげたいし、女性の影があるのなら知らなきゃ始まらないもの」
「驚いた。意外と行動力があるのね、ローゼ」
ベッドに寝転がりながら、ジルケはほうとため息をつく。
ローゼだって、そんな慎みのないことをしたいわけではない。
ただ、じっとしていてもディルクは恋をしてくれそうもない。だったら、自分から動くしかないと思っただけだ。