マドンナリリーの花言葉



「こっちだ、フリード殿」

クラウスは、ギュンターとフリードを伴い、二階の執務室へと入った。

フリードは書棚の本の多さに目を奪われた。それから書類の山積みになった書き物机に目をやる。手前には小さなテーブルと両脇にクッションのよさそうなソファ。そこから見える壁際に、一枚の肖像画がたてかけられていた。

フリードはその絵画の前に立ち、息を飲んでそれを見つめる。

たしかにローゼにそっくりだ。小さな顔に映えるピンクブロンド。艶のある唇や、滑らかな肌はまるで生きているかのようだ。ただ、ローゼらしくないと思えるのは表情だ。口元は笑っているのにどこか寂しそうで、影がある。喜怒哀楽を素直に表現するローゼからはお目にかかったことがない、複雑な表情。


「これが、……例の肖像画ですか?」

「そう。先ほどのローゼ嬢とそっくりだろう」

「ですが」

「分かっている。この絵は古いものだ。彼女を描いたものではない。……しかし、ここまでそっくりなら血縁者の誰かである可能性は高いだろう。俺は絵の女性を見つけ出したいんだ。フリード殿、彼女の実家のことを教えてはくれないか?」


反論しようとしたフリードに、みなまで言わせぬようにクラウスが重ねた。
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