マドンナリリーの花言葉
フリードは逡巡する。ローゼがメイドだというのはおそらくギュンターが伝えているはずだ。ギュンターにちらりと視線を送ると、困ったように微笑まれた。
相手は第二王子。隠し立てしたところでこちらに有利になることは何もないだろう。
「このような場に出席させましたが、彼女は花農家の娘です。数か月前にメイドとして屋敷に勤めるようになり、ギュンター殿のお目にかかった次第です」
「それに関しては責め立てはしないよ。どうせエミーリアの提案なんだろう?」
ギュンターの口添えに、クラウスが頷く。フリードはホッとして、息を大きく吐き出した。
そして覚悟を決める。今まで硬直していた物事が動き出したということは、すべてを明らかにするタイミングが来たということなのだ。
「……内密の話なのですが」
「うん」
「ローゼとよく似た女性を知っております」
クラウスが片眉を上げ、興味深そうに体を前に起こした。
「……年のころは?」
「三十歳前後かと」
クラウスの顔に喜色が浮かび、ギュンターと顔を見合わせる。
「年齢的にも、この絵の女性でおかしくないな。フリード殿、その話、詳しく聞こう。座ってくれ」
言われるがまま、フリードはソファに腰かけた。向かいにクラウスが座り、ギュンターは窓辺によって二人を眺めている。
「その女性は、アンドロシュ子爵夫人のパウラ様です。私は直接顔を見たことはありませんが、うちの従者のディルクによれば、ローゼとはそっくりだと言っています」
「アンドロシュ子爵家と言えば……、今日子爵子息のエーリヒ殿が来ていたよな。彼の親だとしたら相当の年じゃないのか?」
もっともな疑問に、フリードも不快な気持ちを隠せずに苦い顔で頷く。