マドンナリリーの花言葉
ディルクは、クラウス自慢の薔薇園に向かい、迷路状に作られた生垣の間を風を切って走った。
途中、愛を語らう男女とすれ違い、ムードをぶち壊しにしたことを申し訳なく思いつつも、その女性のほうがローゼじゃないのかも抜かりなく確認する。
ローゼが社交場に出たのは今日がはじめてだ。
エーリヒが懸念したようなアンドロシュ子爵からの刺客がくるには早すぎる。
だから、彼女をさらったのは少なくとも彼の手のものではないだろう。
もしクラウス王子が彼女を連れて行ったのだとすれば、エミーリアに分からないはずはない。だから王子とギュンターも除外できる。
単純に考えれば、ローゼを見初めた男が彼女を口説くために連れ去った線が一番濃厚だ。
だからこそ、ディルクは一番に、薔薇園を探しに来たのだ。
しかし、捜索は思うように進まない。薔薇園は恋を語る男女のために設計されたようなもので、構造が入り組んでいる。死角が多く、時折行き止まりがあったりとまさに迷路だ。
ずっと走り続けているディルクの息は相当に荒くなっていて、心臓が肥大しているのではないかと思うほど全身に脈動が伝わっている。それでも足を止めることができないのは、頭の中に半泣きのローゼの顔がちらついているからに他ならない。
連れ去られたのか、はたまた自分から着いていったのか。恐縮しきった彼女の様子を思い出せば、前者である可能性が高い。