マドンナリリーの花言葉
感情豊かで、素直に気持ちをぶつけてくるローゼ。
ディルクは当初、その外見から彼女のことを警戒していた。パウラ夫人と関係のある人物だと思えば、心を開くことなどできはしないと思っていた。
そんなディルクに、ローゼはまっすぐに向かってきたのだ。
(見失ってからこんなに焦るなんて、愚か者のすることだろう……!)
自分にこれほど歯噛みしたい気持ちになったのは初めてだった。
どうして、自覚したその時に彼女に気持ちを伝えなかったのか。何が起きても守るからなんて、甘い言葉だけ吐いたところで実行できなければ何の意味もない。
「頼む……。見つかってくれ」
(神頼みをするなんて、いつ以来のことだろう)
家名を失い、ひとりになってから、ディルクは自分とフリード以外を信じることを辞めた。この世に神がいるならば、何の落ち度もない妹の命が奪われるはずなどないのだから。
だが今は、いるかいないか分からない神にもすがりたい気持ちだった。
しかし無情にも再び行き止まりにぶち当たり、ディルクは立ち止まる。
「……頼む。……ローゼっ」
目を固くつぶり、必死の祈りを口に出した。そのとき、ディルクの耳に飛び込んできたものがあった。
「……やっ」
それは微かな音だった。
薔薇園の生け垣の向こうから、ガサガサという音とともに聞こえた小さな拒絶の声だ。
しかしそれは、記憶にあるローゼの声と同じだったのだ。
ディルクは迷路状の薔薇園の抜け道を探そうと見渡した。しかし、大分奥に入っていたためすぐに抜け口はありそうにない。
生け垣はディルクが背筋を伸ばしてようやく向こうが覗けるほどの高さだ。しかし、薄暗闇の中、人の判別まではできそうにない。
叱責覚悟で生け垣の土台に足をかけ、美しい花の持つトゲに傷つけられるのもかまわずに飛び越した。