マドンナリリーの花言葉


 エミーリアがエリーゼと呼ばれる華やかな令嬢と話し出した時、ローゼはソファの端で目を瞑っていた。

分不相応な場所で気を張っているのにも疲れてきていた。守ると言ってくれたディルクが視界からいなくなると余計だ。ため息とともに背もたれに寄りかかったとき、背もたれの陰から声をかけられた。


「お嬢さま、具合でも悪いのですか?」


ローゼははっとして後ろを向く。


「いえ、大丈夫……」

「やあ、ローゼ。どういうことだい? どうして君がお客としてここにいるのかな?」


背もたれに隠れるように身を低くして、花商人の息子、クルトがそこにいた。
以前ローゼとクレムラート家の披露宴にもぐりこんだ時のように、使用人のふりをして入り込んだようだ。


「……クルト!」

「大きな声を出さないで。俺がここで、君の正体を言えばどうなるか分かるだろう?」


ローゼは青ざめてエミーリアを見る。こんな場所で農家の娘を連れてきたことがばれたら、クレムラート家の評判はがた落ちだ。大好きな領主夫妻に迷惑をかけるわけにはいかない。ローゼは声を潜めて、背もたれに向かって問いかける。


「私にどうしてほしいの?」

「誰にも言わずにこっちに来てよ。君は僕側の人間だろ?」

「でも、エミーリア様が心配されるわ……」

「少しだけだよ。別に君を攫おうなんて思ってはいない。ここの庭は見事な薔薇園なんだ。花商人としては見ておかないといけないだろ?」

「でも私……」

「君は貴族じゃない。花商人の娘だろ?」


凄んだような声にぞっとして、ローゼはそれ以上何も言えなくなる。
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