マドンナリリーの花言葉

「君がこんな女だなんて思わなかった。純情ぶって……のし上がる機会をうかがっていただけだったんだな。でもさ、俺たちみたいな平民が、いつまでもうまくやれるはずないだろう? どうせいつか捨てられるんだ。俺がそのきっかけを作ってやるよ」


開いた胸元があらわになり、抵抗しようとした手は男の力で押さえられる。ローゼは助けを呼ぼうとしたが、叫びが声になる前に唇を塞がれた。
ローゼは吐きそうなほどクルトに嫌悪感を覚えた。


(気持ち悪い。助けて。助けて、ディルク様)


ローゼが固く目を瞑ったとき、薔薇園のほうからガサガサという大きな音がした。
咄嗟にそちらを見たクルトは、薔薇の生け垣を飛び越えてくる男に小さな悲鳴を漏らした。


「誰だ?」

「ローゼ! いるのか!」


近付いてくる男の声に、ローゼは目を見開いた。そして、呆然として力が緩んでいたクルトの手を押し返し、濡れた唇を腕で拭いつつ、必死に声を出す。


「た、助けてくださいっ、ディルク様っ」

「そこか!」

「やばいっ」


ローゼの上から飛びのくようにして逃げたクルトは、駆け出そうとしたところをディルクに捕まえられる。

舞踏会に参加していたので、ディルクは帯剣していなかった。けれど、素早い足さばきでクルトを地面に転がせると、上に覆いかぶさるようにして押さえつけ、その頬に殴り掛かった。一発、二発。常のディルクならば捕まえただけで手は出さない。しかし、今は何度殴っても気持ちが収まらないかのように、繰り返し殴り続ける。


「お前、何者だ」

「ひっ、ひいっ」

「なぜ彼女を攫った。彼女に何をした」

「アンタ知ってるのかよ、この女はただの平民だぞ? 貴族に取り入れられようとして身分もわきまえずにあんなところに忍び込んで……」


最後まで言えなかったのは、ディルクが男を気絶させるほど強い鉄拳を打ち付けたからだ。
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