マドンナリリーの花言葉
「……くたばれっ」
およそディルクから発せられたとは思えない言葉を、ローゼは上半身だけを興し、胸元にドレスを引きあげながら見ていた。
息を吐き出し、男が気絶しているのを確認したディルクは、上着を脱ぎ、ローゼの肩に被せた。
「遅くなってすまない」
「いいえ。た、助けてくれてありがとうございます」
ローゼの歯がカタカタと小さく音を立てている。
髪もほつれ、いかにも襲われたという体だ。
「大丈夫か? 何をされた?」
途端に、ローゼの目に涙が浮かび、無言で唇をぬぐいだした。
その行動にすべて察したディルクは、彼女を安心されるように抱き締めた。
ローゼは驚きで息を飲む。しかし、汗のにおいと彼の肌のぬくもりを感じて、ほっとした途端に涙があふれだした。
「こ、怖かったです。ディルク様」
「ああ。こいつはいったい誰なんだ?」
「花商人の息子さんです。昔なじみで。……私が、貴族の愛人になってのし上がろうとしていると思ったみたいで」
「……ガキが」
舌打ちをしたディルクは、少しだけ体を離し、ローゼの目元の涙をぬぐうようにキスをした。
ローゼは驚きのあまり言葉を無くして彼を見る。暗い庭、遠くから響く楽団の音。先ほどは怖かったこの場所が急にドラマチックな環境に思えてきた。
「もう大丈夫だ。安心しろ」
ディルクの手が、ローゼの背中を撫でる。ローゼは安心の涙があふれてきて、彼の胸にしがみついて泣いた。
大きな声はあげなかった。ただ、嗚咽を堪えながら涙を流しているとディルクの手が優しく頬や目元を撫でてくれる。