マドンナリリーの花言葉
そしてようやく呼吸が整ったところで、ディルクはローゼの顎を上に向かせた。
「君の気持ちは今も変わっていないか。それなら、俺は君を守る権利が欲しい」
「え?」
「……こんなゲスにも、他の貴族の男にも、君を渡したくないと言っているんだ」
「それって……」
涙で濡れたローゼの頬に少しばかり赤みがさす。ディルクは、返事を待たなかった。
強引に引き寄せ、彼女の唇を奪う。
駆られたのは嫉妬にだろう。彼女から、この男の影を消したいと、この時ディルクは本気でそう願ったのだ。
自分のにおいを塗り付けるように濡れた唇を舌で舐め、つぶやく。
「君を失いたくない。だから離れるな」
キスに翻弄されるローゼは、なかなかその言葉の意味を理解することができなかった。
ようやく唇を離してもらい、頭の中で反芻すること数回。ようやく自分に言われているのだと理解して顔が真っ赤になる。
「わ、私のこと、ですか?」
「ほかに誰がいる。もう俺の傍から離れるな。ちゃんと守らせてくれ」
「本当ですか? 私、パウラ様にそっくりなのに。……なのに、好きになってくれるんですか?」
「君と彼女は全然違う」
それは、もしかしたらローゼが一番待ち望んでいた言葉だったかもしれなかった。
重くのしかかっていたものが消えてなくなり、せっかく止まった涙は再びあふれ出してくる。
「嘘みたい。夢ですか? ディルク様」
「夢じゃない。ちゃんと聞いているのかローゼ」
「夢、……みたい」
安心からなのか、ローゼの意識はそのまま遠くなっていった。