マドンナリリーの花言葉
「ローゼ、少し父上と散歩してきてくれないか?」
ディルクがそう促すと、ローゼは彼の意図を感じ取ったように目配せし、素直に父の腕を取って誘い出す。
その後、残された母親に向かって、ディルクは切り出した。
「実は……確認しておかなければならないことがあります」
「何かしら」
「あなたはかつて……アンドロシュ子爵家で侍女をしていませんでしたか?」
母親ははっと息を飲んで、周囲に視線を巡らせた。誰もいないのを確認してから、ディルクのほうにそっと近づく。
「……あなたは何を知っているの?」
「アンドロシュ家の……エーリヒ様からすべてお聞きしました。実は先だって、ローゼが夜会に出る機会があったのです。エーリヒ様が言うには、生きていることを知られたらローゼの身が危険だと」
「ローゼを夜会に? どうしてそんなことになるの?」
「それに関しては申し訳ありません。ちょっと事情がありました。その場にエーリヒ様が来ておられて。内密に彼女の出生の秘密を聞いたのです」
母親からは一気に血の気が失せていた。
「あの子も、知っているの?」
「はい。必要があるので話しました。けれでも彼女は、両親はあなたたちだと言っていますし、私もそう思っています。ですが、今の現状ならば、もしアンドロシュ子爵が引き取りたいと言ってきたらローゼは攫われてしまう」
「それで、……婚約ということ?」
「いつかは自分の意思でするつもりでしたが、ここまでことが性急に進んでいるのはそのせいです」
「そう」
夫人は目を伏せ、唇をかみしめた。