マドンナリリーの花言葉
「ローゼの父上は、彼女の生まれをご存知なんですか?」
「ええ。私が話したわ。あの人は、難しいことは分からないってそれしか言わないし、単純な人だから今となってはそんなこと忘れているかもしれないけど」
「……ローゼが、あんなに素直に育ったのは、お父上のお陰では」
ディルクが思わず口元を緩めて言うと、ローゼの母もつられて笑ってしまう
「ふふ、そうね。いつまでたっても夢見がちでまっすぐで」
「そこが良かったんでしょう?」
ディルクに追い込まれて、母親は口ごもった。
「あなたも……どうやら同類ね?」
「ええ。彼女がかわいくてたまらないです」
頬を軽く染めながら語るディルクに、母親は心底ほっとした気分になる。
「あなたには全部話したほうがいいのかしら。……私はもともと、奥様付きの侍女だったの。奥様もお綺麗な人だったわ。だけどその頃のアンドロシュ子爵はエーリヒ様の妹君ばかり可愛がっていたわ。異常なほどよ。社交界にも出さず、行き遅れの年になってから年配の男爵家に嫁がせたの。私はうすうす、子爵の異常な性癖に気付き始めていた。気味が悪くて……奥様がお亡くなりになったとき、一度やめて街の孤児院の仕事を手伝っていたの。その後、人手が足りないからまた働いてくれないかってかつての同僚から頼まれて……断り切れなくてね。でも戻ったとき、旦那様が後妻として迎えたパウラ様があんなに若いってことを知ったの。……すごく気持ちが悪くて、やっぱり辞めさせてほしいとエーリヒ様に申し出たのよ。……そうしたら逆に頼まれたの。実はパウラ様が旦那様じゃない人との子を身ごもっているから、生まれたらその子を連れて逃げてほしいと」
ローゼの母親は、時々口ごもりながら言いにくそうに続けた。