マドンナリリーの花言葉
「婚約者にプレゼントを買うことのどこが勿体ないんだ。勿体ないことがあるとすれば、君がこれに喜ばないことだろう」
「喜んでないわけではありません! でもその……」
見上げればディルクが拗ねたようにそっぽを向いている。肌触りの良い、柔らかなケープがふわりと首元を温める。
「その……」
「なんだ?」
「こ、こんなに幸せだなんて怖すぎます……!」
婚約がかりそめのものだと思ったら、浮かれるのは恥ずかしかった。
それに幸せに慣れるのも怖かった。失ったときのダメージを考えると尻込みしてしまう。
ディルクはため息をつき、彼女に背中を向ける。
「そうか。……俺は、誰かに贈り物をするのなど久しぶりだったんだがな」
ローゼはその背中をみてハッとする。早くに家族を亡くしたディルクだ。それは誰もが家族と過ごす聖夜に、贈り物を交わす相手がいないということを意味する。
「あ……」
ディルクにとっては贈り物の中身の豪華さは関係ないのだ。こうして人に贈り物をする行為こそに意味がある。
それにようやく気付いて、ローゼは焦る。
ディルクは背中を向けたままだ。せっかくの彼の気持ちを台無しにした自分が情けない。